Complicated-しなやかな腕の祈り

「杞紗……」

 貴緒(きお)が甘い声を吐きながら、杞紗(きさ)の孔の中に己を突き入れた。

 杞紗は、その衝撃にはまだ慣れてなかった。

「ん……いたっ……」

「ごめん」

「い、いいから……はぁ……」

 まだ痛みからは解放されないから杞紗の身体には力が入ってしまう。

 それでも必死に貴緒を受け入れようとしている。それが解るから貴緒は痛くないようにしたかったのだが、まだ経験が浅いのでは傷みは残ってしまう。

 入ってしまえば、慣れてしまえば、待っているのは快楽だけであるのは杞紗も分っている。

 でも今日の杞紗はいつも以上に貴緒を欲しがった。

 誘ったのは杞紗の方だった。

 しばらく試験続きで禁欲生活を送っていたから、溜っていたのかもしれない。

 自然と杞紗からの誘いになってしまったのである。

 それで貴緒は上気してセックスは性急になってしまった。
 それが十分に解れてない所へいきなり己を突き付けることになってしまっていた。

 幼さを残す貴緒は、杞紗を抱きたくて仕方なかった。

 でも、杞紗が決めた禁欲生活は思ったより効き過ぎていた。

 こんなに近くに居て触れないなんて拷問というしかないだろう。そんな生活も今日で終わり。そう思うと性急になってしまうのである。

 杞紗の中になんとか収まった貴緒ははっと息を吐いて、杞紗の顔を覗き込んだ。

 圧迫感に耐えている顔は、煽られているとしか思えない。

「はぁ……はぁ……んっ」
 慣れるまでには少し時間がかかる。

 杞紗は深呼吸をして次に来る衝撃に合わせていた。

「大丈夫か?」
 荒い息を繰り返す杞紗にキスをしながら貴緒は問うた。

「ん……大丈夫……」

 なんとか深呼吸をして体勢を整えている杞紗。

 そんな杞紗を愛おしいと思ってしまう貴緒。
 自分だけのモノとして、鎖骨や首筋にキスマークを残す。

「貴緒……」
 杞紗は腕を伸ばして貴緒の首にしがみついてくる。

 それは催促しているかのようだった。
 それに合わせて貴緒は腰を一気に動かした。

「あ……ぁあっ!」

 狙って杞紗の感じる場所を突く。杞紗は衝撃に耐えながらも貴緒を抱き締める腕に力を込めた。

 中を出入りする感覚は、痛みから快楽へと変わるのにはさほど時間はかからなかった。

「あん……あっ!」

 すぐに杞紗は甘い声を上げはじめる。感じているから漏れる喘ぎ声である。

 待ち望んだそれをしっかり感じようとしている。
 十分解されてなかった場所も、すぐに貴緒の大きさに慣れてスムーズな動きへと変わる。

 くしゅくしゅと音を立て、後は杞紗の喘ぎ声だけが部屋中に響き渡る。

「ん……もう……」

 久しぶりのセックスと貴緒の性急さに杞紗はすぐに絶頂を迎えてしまった。

 その締め付けに貴緒も釣られてしまう。

 杞紗は奥に感じる熱いほとばしりに甘い声を上げた。

「あああっ!」

「はぁ……」

 貴緒も一緒に達して、杞紗の上に倒れ込んでくる。

 杞紗は頭が真っ白になりながら、荒い息を吐き続ける。

 今日はなんとか気絶せずに済んだのは幸いだったかもしれない。というのも、この余韻を楽しむのもまた快感だから。

「はぁはぁ……」

「杞紗、ごめん」
 貴緒は謝りながら杞紗の顔中にキスをした。

「くすぐったい……」
 杞紗は笑いながらそれを避けていた。

「眠くなってるだろ」

 貴緒に指摘されて、杞紗は少し笑った。実際、眠気が襲ってきているのは確かだったからだ。

 徹夜のような感じでテスト勉強をしていた杞紗には、体力が残ってなかったのである。

「風呂どうする?」
 貴緒は身体を起こして、杞紗の上から退いた。横に寝転がって、杞紗の顔を撫でている。

 杞紗はうっとりとしていて、暫く目を瞑っていた。

「ん……入る気力がないよ……」
 杞紗はそう答えて、貴緒が伸ばしてきた腕に抱かれて甘えるようにその腕に顔を擦り付けた。

 こういう行為も貴緒には可愛いと思ってしまう。
 セックスの後の余韻を楽しみながら寝ているのは気持ちがいいものだったからだ。

 普段は杞紗は人前では甘えてこないから、こうして甘えてくれる事が嬉しかった。

 場所が家だから、父親に見つからないように用心はしているが、まだ父親が帰ってくる時間には程遠い。

「一眠りするか?」

 貴緒は杞紗を抱き寄せて腕枕をしてやった。杞紗はそこにすっぽりと収まってしまって身動きしなくなった。

 どうやら、一眠りしたいらしい。そう感じた貴緒はシーツを引き寄せて杞紗が風邪を引かないようにした。

 だんだん夢うつつになってきているのか、杞紗から返ってくる返事が減ってきている。

「杞紗、覚えてるか?」
 いきなり貴緒がそう言い出した。

「何……?」
 やっとマトモな返答が返ってきた。

「俺が学年トップだったら、二人で旅行へ行く話」
 貴緒は試験前にそんな事を言い出していた。

 貴緒は大して勉強してなくても学年5番はいつもとっていた。それを聞いた杞紗が、もっと頑張ればトップじゃないかと言い出した事で、貴緒は、学年トップになったら何かしようと目論んでいたのである。

 そうそう簡単には学年トップは難しいと思った杞紗は、自分の成績も上がったら、何でも言う事を聞くと言ってしまったのである。

 つまり、貴緒が学年トップの成績をとり、杞紗もそれなりの順位がとれれば、貴緒の好きにしていいという話が纏まっていたのだ。

 貴緒は、家とかではなく、何処か旅行へ行こうと考えていたらしい。それを打ち明けたのは、先に父親にだった。

 父親はそうした条件をクリアしたら、知人の別荘を借りてやると約束してくれたのである。

 こういうところでは準備万端な貴緒。

 こういうことがなくても、前の学校との勉強が違う杞紗は必死に勉強をしていた。約束がそこまで進んでいるとは思わずのこと。

「本気なの?」
 貴緒の胸に収まっていた杞紗が顔を上げて貴緒を見上げた。

「本気の本気」

 しかも親の了承も取ってあるのである。

 試験が終わったらすぐに順位発表がある。そしてそれが終わったら試験休みに入るので、旅行はちょうどいいのだ。
 でも杞紗はそこまで話が進んでいるとは思ってなくて驚いていた。

「有言実行の男だからな」
 貴緒はそう言いながら、杞紗の髪を梳いた。  

「解った。明日の結果で……」
 段々眠くなってきたのだろう。語尾が消えかかった返事が返ってきた。

 今回、貴緒は必死に勉強をした。
 杞紗と二人、誰も邪魔のいない場所へ行ける事が励みになっていたのは言うまでもない。

「どうにでもして……」
 杞紗はそう答えて眠りに落ちていった。

 貴緒はそんな杞紗を抱き締めてキスをし、自分も一眠りしようと眠ることにしたのであった。

 杞紗はそんな優しい腕に守られて眠りに付いた。