Blue on pink-5

 緒方と千雅は、それからすぐにホテルに移動をした。普通のホテルはまだ清掃時間で受付をしていない時間帯。だから駆け込めたのは、普通にラブホテルだった。
「本当はホテルの方が長居できていいんだけど」
 まさかこの年になってラブホテルに駆け込むとは思わなかったと緒方は言う。
「俺は……初めてです」
 ラブホテルなんて来たことはないと、はっきりと千雅が告げると、緒方は破顔した。
「本当に? 彼女とかは?」
「作ったことはないです。高校からバイトばかりしていて……それに興味がなくて」
「男は?」
「ありませんっ!」
 千雅はそう急いで答えた。
 そこは勘違いされては困るところだ。
「うん、分かってる。俺が初めてなんだってことは」
 緒方はそう言うと千雅にキスをした。
 風呂にはすでに入ってしまっていたから、千雅のバスローブをスッと緒方が脱がしてしまう。
 ベッドへと千雅を押し倒して、緒方は千雅の肌に触れた。 大学生になっても、いわゆる幼児体型と言われる千雅であるが、緒方はそれに触れて、体中を撫で回した。
「ん……あぁっ」
 触られるだけで、様々なところが感じる。
 緒方の手が乳首に触れる。それだけで千雅の体は跳ねた。
「ん……っん、ん……」
「大丈夫、そのまま任せて」
 緒方はそう言って乳首を吸う。チュチュッと音を立てて吸い、舌で舐めて転がした。すると千雅自身がムクリと頭をもたげる。
「あっ、あっ、んぁあぁんっ」
 その千雅の性器を緒方が出て握って扱き始める。
「ちょっと冷たいけど」
 そう言って緒方がローションを取り出して、それを性器にも掛けた。そしてローションの滑りを借りて扱きだす。
「あっ、あっ、あっ! ひ、あぁあん!」
「気持ちいい?」
「ん、ぁあっいいっいいっ」
 緒方は慣れたように千雅自身を扱きあげていく。その間も緒方は千雅の乳首を吸って舐めてを繰り返す。
「一回イッておこうね、千雅」
 そう言って緒方が千雅を絶頂へと導く。
「あんっあっあぁあ――――――っ!」
 有り得ないほどの快楽が他人の手によって与えられるのを千雅は少し怖いと思った。だが相手は緒方だと、しっかりと相手を見た。誰の手でもない緒方の手でイクのだと思ったら、逆に興奮してそのまま達した。
「ん、綺麗にイッたね」
 腹に跳ねた残滓(ざんし)を舐め、緒方が満足したように千雅の頬にもキスをする。
「ん……っ」
「このまま任せてね、千雅」
 緒方はそう言って、千雅の孔に指を忍ばせてきた。
「ん……あ……」
「そう、力を抜いてね」
 緒方は言ってから千雅の内股にキスをする。
 ヌチャヌチャと音を立てて、指が増やされて孔が広げられるのだが、緒方はその行為に時間をかけた。あまりに時間を掛けたので、千雅が待ちきれずに言った。 
「もう……いいから……緒方さん……んぁ」
 千雅はそう言って更にならそうとする緒方を止めた。
 緒方はやっとそれで指を抜いた。
「千雅……少し辛いかもしれないけど、ちゃんと駄目なら言ってくれ」
「大丈夫ですっ……お願いします」
 千雅がそう言って覆いかぶさってくる緒方に手を延ばした。緒方はそのまま千雅に体を預けるように抱きしめられ、そして千雅を突いた。
 ならしたとはいえ、行為になれているわけではない千雅の孔はきつかったが、ゆっくりと体を進めていき、根本までしっかりと押し込んだ。
「ふっ……千雅……すごい」
「あ……んっ……んぁ……あつい……」
 緒方の性器が完全に千雅の中に入っている。受け入れるようにできてない孔の中で熱く脈打つモノを感じて、千雅は幸せだった。
 ギュッと内壁が緒方のモノを締め付ける。
「はっ……動くよ、そのまま力抜いてて」
 内部が慣れたころに緒方が動き出す。ズルリと少しずつ抜き差しをし、次第に大きな動きになってくる。
「あぁっやぁ、あ……っ! んっ……んぅ――っ!」
 最初こそ異物感があった行為も、次第に快感に目覚め始める。緒方が慣れているのか、上手く千雅の前立腺を突いたり外したりと繰り返すので、千雅はすっかり翻弄されていた。
「あっあっ、ふ……んんっ、んぁっ」
「ほら、ここが千雅のいいところ」
「あんっ! あんっ! あっあっ!」
「気持ちいいだろ? ね、千雅」
 緒方は強く千雅の中に押し入ったりしながらも、千雅の様子を観察すように眺めてくる。千雅に苦痛ではなく、快楽を与えたいから、様子を手に取るように分かりたいと思っての行動だ。
 笑顔でありながらもうっすらと汗を浮かべた緒方の顔を見て、千雅は満足げに微笑んだ。
 緒方に合わせて腰まで使い始める千雅に、緒方はくっと顔をしかめてから言う。
「この……凶悪な、腰つき。たまらない」
 千雅の行動を好ましく思う緒方は更に千雅を追い詰めるように角度を変えて千雅を突いた。
 ローションの滑りを借りているから、千雅はすぐに行為に慣れることができたようで、貪欲に緒方の体を求めた。
「あ、あん……っ、いいっ、いいっ、きもちいいっ、緒方さん、あ――っ!」
 あまりにも強い快楽に千雅は我を忘れて腰を振った。そして緒方はそれを更に振り回すように突いて突きまくった。
 パンパンと音が鳴るほどの強さで突かれ、千雅はとうとう孔だけで精子を吐き出してしまった。
「いっ!いくっぅう……っ、あああああぁっ!」
 嬌声(きょうせい)とともに、千雅自身から精が吐き出される。それが長く吐き出て、千雅や緒方の腹を濡らした。
 そして同時に緒方が千雅の中で射精をした。
 だが熱いものは内部には届かない。緒方はそのまま性器を千雅の孔から抜いて、いつの間にか嵌めていたコンドームを外した。
 それを投げ捨てると、千雅の体を俯せにして、腰を高く上げると言った。
「……は、千雅。生でいい?」
「……はい……ください」
 そう言うと同時に緒方が千雅の中へと押し入ってきた。
 千雅は生の性器を感じながら、緒方に翻弄される。緒方は軽口を叩くのをやめ、ひたすら千雅の体を求めた。
「あぁっ、あっ……っ、ああっ!あっ、あーっ……!」
 緒方の激しい攻めを受けながら千雅は、緒方の熱い精を奥に受けながら絶頂を迎え、最後には気を失った。



 初めてのセックスで、緒方が満足するまで続けた結果、千雅は数え切れないほど絶頂を迎えたし、精も吐き出した。あんなことを繰り返し続けたら狂ってしまうと思えるほどに翻弄された。
 行為の後、緒方は何度も謝ってくれた。
「ごめん、加減ができなくて、気絶するまでするなんて。しかも初めてなのに」
 そう言って泣きそうだった。
 それがちょっと面白かったのもあった。
 千雅はそんな緒方に微笑んだ。
「いいです、俺も欲しかったので」
 そう答えたら、緒方は。
「これ以上煽らないでください……」
 と本気で困っていた。
 それを思い出すだけでも、千雅は幸せだった。
 誰かにここまで欲しいと求められたことはない。しかも自分から欲しいと言ったり、思ったこともなかった。けれど実際にそう思った時に、心は止められないものなんだと気付いた。
「けど、やり過ぎるのは……こうなるわけか」
 千雅は昨日なんとか自宅にまで緒方に送ってももらってから、丸一日気絶するように寝ていた。
 体への負荷が思ったよりもあり、起き出した時は体がガチガチに痛んでいた。普段しない格好で長時間同じことをしていたら、筋肉痛になったのだ。
 一日顔を見せなかったら、緒方からメールが入っていた。
『大丈夫?』
 その一言だったが、千雅は笑って返信を返した。
『筋肉痛で、身動きが取りにくいので休んでます』
 そう返すと、やっぱりと緒方が「ごめんね本当に」と返してきた。
 どうやら緒方は仕事中らしく電話はなかった。
 千雅はメールを何度か返して、とりあえず休むと書いたあとは寝てしまった。 その時は幸せでたまらなかった。


 次の日、緒方に心配をかけたと思い、クラブの店を訪ねようとした。裏道を通り、人通りが多いところに出ると、緒方がクラブに向かっているのを見つけた。
 追いつこうとして走ろうとした時、緒方に男性が近付き、緒方に話しかけていた。
「遼介(りょうすけ)、久しぶり」
 そう言って近付いてきた人は、緒方をファーストネームで呼んだ。
「っ! お前……海(かい)っ!」
 緒方は一瞬だけ眉をひそめたが、馴れ馴れしく肩を組んでくる海(かい)の手を叩いて落とした。
「どういうつもりで」
「いいじゃん、俺とお前の仲だろ」
「何言って……んだっ」
 緒方は信じられないものを見るようにしていた。
「最近日本に戻ったんだ。またお前に会いたくて」
「勝手言うなっ」
 緒方はそう言うと、クラブへの近道へと入っていく。海(かい)と呼ばれた男性はその後をついていき、緒方に何度も触れている。
 千雅はその光景を見て、嫉妬に駆られておかしくなりそうだった。
 その後を追って、千雅も近道へ入る。緒方たちはすでに二つ目の角を曲がったところで、もめていた。
「俺たちはもう別れてるんだぞ」
 緒方がそう言うと、海は首を振る。
「俺は別れたつもりはなかった。離れている間も遼介のこと思い出してた」
「何言ってんだ。お前、結婚しただろ。それで海外へ行ったくせに!」
「すぐに離婚した。また転勤になって東京に戻ってきた」
「は?」
 どうやら海という男は、緒方の別れた恋人だったようだ。だが元恋人である海は別れたつもりはなかったという。しかも結婚して緒方を捨てたのに、また戻ってきて元の鞘に収まろうとしている。
「ふざけるなっ!」
「ふざけてない、お前をまだ愛してるんだ。だから戻ってきた」
「……っ!」
「二年経って、まだお前が一人だと知った。だから来た」
 そう言い、海は緒方にキスをした。
 海は緒方より大きく、上から押さえつけるようにして無理矢理だが、緒方が逆らえないのを知っているかのようなキスを続ける。
「んっっ! や、めっ」
 緒方が必死で抵抗しても、覚えているキスには抵抗できなかったようで、一頻(しき)りキスを楽しんだ海は緒方に言う。
「また二人で楽しくやろうぜ、お前だって悪くはないんだろ?」
 そう言って緒方の服の上から性器を触っている。
「やめろっ! 俺にはもう付き合っている人がいるっ! お前なんか二年前に忘れたっ!」
 緒方が激しく抵抗して大声を上げると、海には予想もできなかったことらしく、信じられない顔をしたあと、ふっと笑い肩をすくめた。
「何言ってんだ……遼介」
「確かに、一年前ならお前の提案は受けたと思う。けど、二年だ。俺の心だってお前からは離れてしまった。もうお前のことは思い出でしかない」
 緒方ははっきりと海に告げた。
「大体、結婚したから勝手に別れを切り出して消え、離婚したからよりを戻そうとか、俺を馬鹿にしてるだろっ! そんなに安くないんだよっ!」
 緒方はそう言って海を厳しく拒絶をした。
 だがそれは、信じていて裏切られたという思いがあるから、憎いと思っているから言えることだ。何とも思ってない、思い出だというなら、こんなに声を荒げてしまうことはないと千雅は思った。
 緒方の拒絶は、裏切れた恨みもこもっている。
 もし千雅と寝たのが一昨日じゃなければ、緒方は海に流されていたかもしれない。
(そんなの……いやだ。捨てておいて、都合がいいからまた利用しようする男なんかに緒方さんを取られるなんて)
 千雅はそう思って、すっと二人の前に姿を見せた。その千雅に気付いて二人はハッとした。特に緒方の驚きは大きかった。
「千雅っ!」
「緒方さん……」
 千雅は緒方の側に走っていき、緒方に抱きついてキスをした。
「……っ!」
 いきなりの千雅の行動に驚いた緒方だが、千雅からのキスを拒んだりはできなかったように、散々受け入れてから離れた。
「千雅、どうしたの?」
「聞いてた」
 千雅はそう言うと、クルリと海の方を向いて言った。
「緒方さんは俺のモノだ。お前なんかに渡さない」
 その言葉に一番驚いたのは緒方だろう。海の方は一瞬だけ驚いたが、千雅の姿を見て馬鹿にしたように言った。
「お前みたいなのがか。遼介を満足させられるとは思いもしないな」
「一昨日死ぬほどやって、二人ともぐったぐたになったし、次の日使い物にならないほどだったけど、そのどこが満足してないって?」
 千雅はそう挑発した。
 すでに千雅と寝ているとは思ってもなかった海はぐっと息を飲んだ。
 どう考えても緒方のタイプではない千雅の外見や態度。それなのに、緒方を見ると嬉しそうに微笑んでいた。
 その笑顔は、それこそ海とつきあい始めた頃には見せてくれていた、優しい微笑みだ。もう何年もその顔を海は見ていなかったことに気付いた。
「緒方さんを捨てたくせに、今更よりを戻すなんて勝手なこと、許されるはずもない。むしろ顔なんか見せることさえできないようなことをお前はやったんだ。よりを戻しても絶対に心は戻らない。お前は自分で緒方さんの好きだって心を殺したんだ」
 千雅がそうはっきりと告げると、海は何か言いたそうにしていたが、反論は思い付かなかったのだろう。何か言いそうにして、そして言葉を飲み込んだ後に、緒方にいった。
「本当に元には戻らないのか?」
 それに緒方が答えた。
「俺にはこの子がいる。だからお前と一緒にはなれない。それにお前は俺と生涯いるなんてことはしてくれない。また何かあったら、お前は俺を捨ててそれに飛びついてまたいなくなる。俺は、一緒にいてくれる人がいい。千雅は、俺の方を選んでくれた」
 緒方はそう言って千雅を抱きしめる。
「俺は千雅が好きだ」
「俺も緒方さんが好き」
 千雅は緒方の告白に答えて、緒方を守るように抱きしめ返した。
 緒方の言葉に海はまた何か言いかけるのだが、千雅を目にするとその言葉を飲み込むだけだ。
 きっと緒方だけなら丸め込めるのだろうが、千雅はそうはいかなかった。千雅は海を知らない上に信用や信頼が一個もない。だから海の言葉を良いようには絶対に取らない。
 千雅の存在が緒方の心を前へと進める。
 そして千雅の目が、海の軽い気持ちを見透かしている。セフレを新しく作るのが面倒で、前の男にちょっかいを出してしまおうとしたことなどだ。
「そんな子供がいつまでもお前の側にいてくれると思ってるのか」
 海はそう言い出した。
「俺はあんたじゃないんで、一緒にするな」
 千雅が強い言葉で海を非難する。
「いつか捨てるぞ」
「俺はお前じゃない」
 千雅は海の言葉を否定する。緒方に何かを喋らせる気もないというような素早さに、海も悔しくなってくる。確かにお前は俺じゃないなと。
「他人の心を不安や不快さでいっぱいにして緒方さんを手に入れたって、お前はまた捨てる。お前は絶対にまた同じことをする。それが分かっていて渡せるわけないだろう」
 千雅はそう言い切り、海の言葉を切って捨てる。絶対に渡さないという千雅の意志の強さに、千雅を舐めていた海も睨むしかできない。
 千雅と海の睨み合いが続いた時だった。
「千雅、かっこいい」
 緊迫した場面で、緒方がそう言う。千雅を抱きしめて千雅の頭に頬を寄せてグリグリと撫でるようにする。
「もうね、惚れてもらってるって凄いいい気分なんだ」
 緒方はそう言うと海に向かって言った。
「俺と千雅が今後どうなろうと、海、お前には関係ないことだよ。これから先は俺と千雅が話しあって、いろいろ決めることなんだ。別れる別れないだって、未来のことは俺だって分からないよ。だから二の舞にならないように、生きていくんだ」
 緒方は言って海に微笑んだ。
 それこそ、数年ぶりに見せる笑顔で、海はこれ以上緒方に何も言えなかった。恋人は別れる寸前の頃には笑いもしない人になっていた。海が勝手ばかりして緒方を振り回し、そして勝手に別れを決めて渡米した。しかも結婚までして緒方を捨てたのだ。
 その罪は、もちろん消えない。緒方は海とのことを思い出にして、千雅の手を取った。
 海は、自分勝手を続け、妻を傷つけ離婚し、捨てた緒方に縋(すが)り今度はきっぱりと拒否された。何も成長をしない海と、成長して海に似ても似つかない恋人を選んだ緒方。そして見た目に反して、強烈なほど素直な千雅。
「そいつと別れたら連絡をくれ」
 海はそう言ったが緒方は首を横に振った。
もし千雅と別れても、また一人で泣くだけだ。海と別れた時のようにだ。
 海は緒方が首を横に振ったのを見て、苦笑してから去っていった。
「緒方さん。俺は絶対に緒方さんと別れたりしません」
「うん、知ってる」
 千雅の言葉に緒方は頷く。
「だから、あ、愛してます」
 誰かをここまで守りたくて、誰にも渡したくないなんて思ったことはない。緒方に出会って芽生えた心だ。強くなりたい、守れるくらいに強くと願った。
「俺も愛してるよ、千雅」
 緒方は言って千雅にキスをした。
 触れる唇を感じて千雅は目を閉じた。
 優しい優しいキスだった。