ROLLIN'1-4

 翌日は響は休みだと聞いた楸は、響を自分の部屋に呼んだ。
 案の定、抱き枕扱いである。それには慣れてきていたので、まったく抵抗はなかった。

 だが、その日、抱き枕役の響は楸に押さえ付けられていた。
 ちょっと待て、これはいつもと違うぞ。
 そう思って、響は身体をずらして逃げようとした。でも、楸の響を押さえる力は強くて、完全に逃げるという行動を塞いでしまっている。

「何もしないって言ったじゃないか!」
 響がそう叫ぶのだが、楸はまったく聞いていなかった。

 布団に入るや否や、楸は響にキスをしてきたのである。
 それも濃厚なキスを。

「ちょ……ん」
 なんとか顔を背けるようにして、逃げようと試みるのだが、どれも失敗してしまっていた。
 楸は響が抵抗しているにも関わらず、キスを続けた。
 響の心を溶かすような、そんな激しく優しいキスだ。

 それに抵抗出来ない響。
 酔っているのもあって、余計に力が入らないのである。
 
 くそー! なんで俺、こんな目に合っているんだ!
 理性を保とうとするのだが、楸の攻撃にそれさえ投げ捨ててしまいそうになる。
 楸がしてくるキスは、気持ち悪くない。
 それどころか、どうにかなってしまいそうになる。

 やっとキスが離れたのは、響が息切れをしてしまった頃だった。

「はっ……ん」
 やっとマトモな空気が吸えた響は、なんとか深呼吸して息を整えて文句を言おうとした。

 冗談じゃない!ふざけるな!
 そう口にしようとした時に楸はそれを遮るように言った。

「酔ってる時のお前は大胆だからな」
 楸はそう言って、響の服を脱がしていく。
 その手際はいい。響が息を深呼吸にして、整えた頃には、パジャマのボタンは全て外れていた。

 こんのぉー変態野郎!

「ど! どこ触ってやがる!」
 パジャマの上着をはだけさせ、そこに楸の手が忍び込んでくる。
 そして、胸の突起を指でさっと撫でた。

「あ!」
 びくりと身体が震えた。
 今の感覚、何? と響は驚いてしまう。
 さっと触れただけなのに、自分の中の奥がズクッとしたのだ。

 楸は手慣れた様子で、さっさと服を脱がしていく。

「待てって! 何するつもりだ!」
 響は、叫んで楸の手を止めようとした。
 だが、その手を押さえ付けられてしまう。

「何って、セックスだが」
 楸は何でも無いという風に答えを返してくる。

「冗談じゃ無い!」
 セックスだと!
 何、考えてやがる、変態ヤクザめが!
「俺も冗談じゃないんだがな」
 ニヤリとして楸は答えた。

「お、落ち着こう!」
 とりあえず、響は楸を思いとどまらせようとした。
 このままでは完全に楸の主導権のままにやられてしまいそうだ。

「落ち着いてる。お前こそ、落ち着けよ」
 楸は暴れる響を押さえ込んで、顔を覗き込んできた。

「この状況で、はい落ち着きましたって言えるか! とにかく、離せって!」
「離したら逃げるだろうが」

「当たり前だ! 今まで何もしなかったじゃないか!」

「それはもう我慢に我慢を重ねたという事だ」
 真剣な顔で楸がそう言った。

「じゃあ、ずっと我慢してろ!」
 響は真剣に返した。
 だが、それは今の楸には通用しなかったのだった。

「そんなの無理だ。お前、いい匂いがするな」
 すっと、首筋に顔を埋められて、響の身体が思わず跳ね上がった。
  響はもうダメかと思った。

 今まで楸が何もして来なかったのは、仕事が忙しい響に遠慮していたからで、抱き枕くらいで済んでいただけだったのだ。

 明日、響が休日となれば話は別だ。
 その為に、楸は忙しい仕事を早めに収めて、この機会を待っていたのである。

 下着を脱がしながらも強烈なキスをしてくる楸に、もう抵抗する気力を失ってしまう響。

 力では楸に叶わない。それは哀しい事に響も解る。
 いくら喧嘩慣れしていた響でも、叶わない相手はいるものだ。それが楸だった。

 前よりもっと逞しくなってしまった楸の力の前にはどうしようもなかった。
 この、くそ力の変態ヤクザーーー!
 
 キスが止むと、響はまた抵抗をしていた。とにかく、一線を超えてはいけないと思っていたからだである。
 楸がこの一回で飽きてくれるといいのだが、それはなさそうな気がしたからだ。楸は何故か響を丁寧に扱っている。最初の頃もそうだった。
 だから、自分も流されそうになるのを堪えていた。

 そんな響を見て、楸は耳もとで低く言った。

「覚悟を決めろ。俺はお前を抱くと決めたんだ」

「そんなの覚悟出来る訳ないだろう!」
 大きな声で叫んで逃げるチャンスを伺ってみるが、楸には隙がなかった。
 絶対に逃すものかという風に、響を押さえ付けている。

 細長い目が響を捕らえている。
 まるで野獣が獲物を捕らえた時のような、そんな目つきだ。

「誰に助けを求める? 耀にか?」
 楸はそんな意地悪をいう。

 響は、ぐっと拳に力が入ってしまう。
 それが出来ないと解ってて、そう言っているのだ。

 この家には、今は楸と耀しかいない。
 ボディーガードも自分の部屋に戻っている。
 助けを求める相手が誰もいないのである。

「卑怯な……」
 響は楸を睨み付けた。
 どんな大声を上げても、誰にも気付いて貰えない。この部屋は防音なのだ。廊下にいても、誰も響の声を聞き付けてくれる事もない。

 そんな事が一気に解って、響は自分の無防備さを呪った。
 楸が昔のように自分を抱くはずないと、高を括ってたのだ。なんて馬鹿なのだろう。昔の親友のように接してたのに、相手はそうは思って無かったという事だ。

 だが、それはもう2年も前に解っていた事なのだ。
 楸はそう忠告をしていたのだから。

「お前を抱く為なら、どんな卑怯な事でもしてみせる」
 楸の低い声に響はドキリとした。

 楸は本気だ。
 あの時みたいに、自分を抱こうとしている。

 はだけた服の中へ頭を滑らせた。
 キスマークを残すように、首筋、鎖骨へと唇が降りてくる。
 慈しむようにしっかりと痕を残す。

 強烈なキスで朦朧としている響の身体を楸は撫で回した。

「う……ん」
 鼻から息が洩れてしまう。たぶん酔っている。

「これが男の身体か?」
 楸はそう呟いていた。

 響の身体はやはり綺麗だった。
 人を欲情させる身体。
 この身体を知ったら、他は抱けない。
 確かに、男の身体なのに、それは解っているのに、欲情せずにはいられないのだ。

 それに楸は夢中になった。

 響を見つけた日から、楸は女を誰も抱かなかった。
 響を目の前にして沸き上がる欲情を他へは向けられなかったのである。身替わりに誰かを抱いたとしても、この飢えは癒されないだろうと、何故か解ってしまった。

 それくらいに、まだ響の事が好きだった。
 また抱きたいと思う程に。

 胸の突起まで達して、それを弄ぶようにすると、響の口から喘ぎ声が漏れた。

「あ! やだっ!」
 身をよじって逃げようとする身体を押さえ付けて、行為を楽しむ。

 興奮した。異常に。
 下の響自身に触れてみる。
 そこはもう感じていたのか、固くなっていた。

「感じてるじゃないか」
 そんな言葉を耳元で言われて、響は真っ赤な顔をしてそっぽを向いた。
 そう楸にされる行為を感じているのだ。
 この身体は楸しか知らない。

 そんな自分が口とは違う反応をする身体との違いに戸惑いを浮かべた。

 嫌だっていうのに……なんで感じるんだ……?
 酔ってておかしいのか?
 何がなんだか解らなくなってきた。

「んんっ」
 喋るのは一苦労、喘ぎしか出ないからだ。
 ずるずると流されてしまう。これではいけないと思うのに、与えられる快楽に響は我を忘れてしまいそうだった。

 足を広げられ、その中に楸が滑り込んでくる。もう響には抵抗は出来なかった。快楽に弱い身体であるのは、楸も知っていた。与えてやればやるだけ、響は楸の思い通 りになる。

「やっ!」
 響の身体が跳ね上がる。響自身を楸が口に含んだからだ。

「あ……あぁ」
 指と舌を使いながら、器用に楸は響を翻弄させた。
 その感触は、二度目。

 女性との経験はあってもしてもらったことはなかった。
 その衝撃は自分が手で処理するよりも強烈だった。

「あ……あぁ……!」

「イイ声になってきたな。もっと啼け」
 楸はそう言って、響自身を軽く噛んだ。

「やぁ……っ!」
 その感触だけで、響は達してしまう。
 楸はそれを飲んでしまった。

「おまえ……変態……」
 口から零れたのを手で拭いている楸に響はそう言った。

「変態でもいい。優しくしてやる」
 楸はそう言うと、響の両足を持ち上げた。

 ちょうど、響の孔も露になる。
 そこに楸は舌を這わした。

「ひっ! そんなっ!」
 孔の襞を舐め、指で孔を広げていく。
 開いた孔に舌を滑り込ませてきたのである。

「ああ!やっ!それ、やだっ!」
 異常に感じてしまう。

 もう身体の力は完全に抜けてしまい、楸から与えられる快感にただ溺れるしかなかった。
 十分濡らされた孔に、今度は指が何度も出入りをする。

 くしゃくしゃと音が部屋中に響いている。
 これが家中に響いているんじゃないだろうかと思えてしまうほど卑猥な音。

「あっ!んっ!」
 本当に優しくやっているのだろう。念入りに孔を攻める楸。

 ここは、楸以外を受け入れてない証拠となるものであった。
 それに満足する楸。

 流れたから、男に抱かれたのではない。楸だったから、響は受け入れてくれたのだと、それが解って、楸は嬉しかった。

 それに他の誰にも渡す気は初めからなかった。
 離れている間も響を探し出そうとはした。

 でも、あの姉の言葉があって自粛していた。
 その言葉がなかったら、自分は初めて響を抱いた後もずっと一緒にいただろう。
 それには最初はそうかと思ったが、離れてみて初めて響の大切さが身に染みて解ってしまい、辛い思いをしたものだ。

 いつだったか、響の話を耀にした事があった。

 唯一残る写真を手にして。
 その時の自分はただ響が懐かしいとだけと思っていた。思い出にしてしまうのには、まだ生々しかったが、それでも思い出にしなきゃらないと思っていた。

 目の前に現れるはずない存在。でも触れたくて触れたくて。
 それを感じ取ったのか、耀は響を見つけてきた。

 再び、響の姿を見た時、衝撃が走った。こんなにも逢いたくて、愛おしい存在だったのかと。そう思った時には、もう響を手放すなんて事は考えて無かった。

 これも何か運命なのだろうと思った。
 自分の父親がそう言った。響と出会ったことは運命だろうと。
 その運命とは楸が望んでいる運命とは違うかも知れないが、楸が側にいる方がいい運命だということは間違いない。
 運命なんてものを一度も信じたことのない、根っからのヤクザの組長がそういうのだから。

 楸はそんな考えを打ち消して、響の身体を楽しんだ。
 極上の身体は焦りを生む。

 早く響の中に入りたくて仕方ない。
 でも傷つけたくないというのもあり、前座はしっかりとしてやった。丁寧な前戯は、響を喘がせるだけとなっていた。

「響……」

「んっ!」
 響の感じる場所は全て覚えている。
 たった、一度抱いただけでも、それは忘れられない事だった。

 耳元で囁いてやると、響はギュッと楸に抱きついてきた。
 もう覚悟は出来たのであろう。寧ろ、ここで止められたら、響はもっと辛くなってしまうだろう。

 響の中へ入れていた指を引き抜いた。
 きゅっと閉まる孔は次のモノを待っているように見える。

「入れるぞ、力を抜け」
「や、待って……は……んん……」
 楸は響に深呼吸をさせて、ゆっくりと響の中に入っていった。
 最初はきつかったのだが、響も合わせてくれたのか、すんなりと全てが中に入っていった。

「んっ……」
 その快感に、楸は息を洩した。
 中は熱く、そして蕩けるようだった。

「お前、そんな顔してたんだ……」
 中にある圧迫感に慣れてきたのか、響が目を開いてた。

「ん?」
 楸が響の顔を覗き込むと、響は少し笑っていた。
 たぶん楸の顔を見ての感想だったのだろう。

 上気して、少し汗を掻いている。でもそれでもいい男の顔を崩していない。少し長めの前髪を、楸は掻き上げた。そして響を見つめる目は、普段の鋭さはなかった。
 響も知っている、優しい楸だ。
 前と、何も変わって無いのだと思い知らされた。

「動かすぞ」
 慣れてきたので、二三度腰を動かすと、響はしっかりと楸に抱きついた。

 この後にくる快楽を響は知っている。
 何年経ったって忘れられるわけもない。
 宣言した後、楸は腰を強く動かした。

「あっ!あん……あっ!」
 激しい衝撃と共に快楽が襲ってくる。

 後はどうしていたのか響は覚えてない。
 楸に揺さぶられる度に喘ぎ声がもれるだけで、頭の中は真っ白になってしまう。

 こんな快楽、女を抱いた時と違う。
 もしかしたら自分は抱かれる側だったのだろうかと思ってしまう程、その快楽に酔いしれた。

「も……ダメ……」
 響はそう声を上げて、1人で達してしまった。
 その締め付けで楸も一回目達した。

「はぁはぁ……」
 荒い息を吐きながら、響は呆然としていた。

 今は何も考えられない。
 頭の中が真っ白だった。

 だらりとした身体を、楸は愛おしそうに抱き締めて、またキスマークを付け始めた。
 これは俺のモノだという印。

 体中にその印を残そうとしているかのようだった。
 子供っぽい行為だとは解っていても、それでも印を残したくなるのだ。そうしてこの身体を独占したい。

「もう……抜いて……」
 まだひくついている内部に残るモノ。
 それを抜いてくれと言っているのだが、そう言ったとたん、それはまた熱い熱を持って固まってしまった。

「嘘だろ……!」
 信じられないと、響は叫ぼうとしたが、それは喘ぎ声にしかならなかった。

 再度楸は腰を動かし始めた。
 今度は激しく。
 欲望のままに出し入れを繰り返す。

「あっ!あぁ!やっ!」
 急激に始まった新しい快楽に、響自身も反応してしまう。
 今度はそこに楸の手が添えられた。

 前と後ろを刺激されては、響も長く持たなかった。
 頭が真っ白になって、そのまま絶頂を迎えた時は気を失ってしまっていたのである。

 ぐったりとした響に満足したのか、楸はやっと己を抜いて、響をギュッと抱き締めた。

「響……」

 愛おしい人の名前。
 何度も呼んでいたい。

 そして「楸」と何度も呼んで欲しい。
 響がいるだけで、楸は幸せだった。
 他の誰より幸せだった。

 もう、絶対に二度と離せない。
 楸はそう思った。




 気を失った響をもう一度風呂に入れた。
 抱いたままで身体を洗ってやって湯舟に浸かっていると、響が目を覚ました。

「なんで、風呂?」
 キョトンとしていた。
 自分で風呂に入った記憶はない。だから、寝ぼけた声でそう呟いたのだ。

 それに答える声があった。

「汚れたからな」
 その声が後ろから聴こえて、響はびっくりして振り返った。
 楸が響を抱きかかえるようにしていたのである。

「楸、俺どうしたんだ」
 何がどうなって、ここにいるのかをはっきりと悟るには、まだ頭が真っ白な状態では無理だった。でも次の楸の言葉で我に返ることになったのである。

「セックスの途中で気を失ったんだ」
 楸は響の髪を梳きながら平然とそう答えたのである。

 うお……聞くんじゃ無かった。

 その辺はまったく覚えていない響。
 でも、とたんに顔を真っ赤にして楸から顔を背けた。

 恥ずかしい……。

 なんだかんだ言っても、俺、感じまくってたって事だろ?
 なんでだ?
 なんで、楸だと感じるんだ?

 響は昔から男に言い寄られる事もあった。
 その時は悪寒すら走ったものである。それなのに、楸だと嫌だと思いながらも結局受け入れてしまうのである。

 それが不思議だった。
 それって俺が楸の事を受け入れて安心してるって事?

 そう考えてみるが何も浮かばない。
 自分は楸にいいようにされたのに腹さえ立ってないのだ。

 あの二年前の時と同じ戸惑いだけがあるだけなのだ。

 それって、俺が楸を少しでも好きだからなのか?
 そうした問いに答えてくれる人はいない。
 自分で考えても解らない。

「響、そろそろ暖まっただろう。あがろう……」
 楸がそう言って響を抱いたまま湯舟からあがろうとする。

「大丈夫だってば!」
 と楸を突き飛ばしたまではよかった。

 だが、響はそのまま腰砕けた状態になって湯舟にざぶーんと落ちてしまった。

 あれ?
 下半身に力が入らない……。

 びっくりした響。
 溺れながらも、その状況判断だけは出来た。
 さっと楸が抱え上げてくれたので、響はお湯の中から助け出された。

「あほ。あれだけやったんだ。腰が立たなくなってると言いたかったんだが、遅かったか?」
 ニヤリと笑われて言われて、響は楸を睨み付けた。

 あほかー!!!
 叫びたかったが、声が出なかった。

 そういえば、二年前もそうだった。
 次の日まで腰がおかしかったのだ。

「だから抱いていってやろうとしたのにな」
 楸はそう言って、響の手を取ると、もう一度響を抱え上げた。
 それも軽々と。

 重さを感じないのか?
 女よりは重いぞ。

「なんかむかつくぞ」
 自分では女性さえも抱えられるだろうか?という事を思ってしまったので、そう呟いてしまった。

「何が?」
「俺、荷物扱いだ」

「腰が立たないんだから仕方ないだろ」
「そうしたのはお前だろ!」

「だから責任とってるだろ」
 そう言って楸は響を抱えて風呂を出た。

 なるほど……。
 そう思ってしまった。
 楸は、響にバスローブを着せて、自分もバスローブを羽織った。

 そのままベッドへ直行。
 サイドテーブルのソファに座らされてしまった響。

 その横で、楸はベッドメイキングをしている。
 汚れたままでは寝れないので、変えているのだ。
 そんな姿をぼやーっと見ながら変だなあと思っていた。

 この男所帯の家でこんな事をする人間がいないからだ。

 じゃあ、今まで自分の事は自分でやってたのか?
 などと思ってしまう。

 迂闊に人は雇えないし、洗濯も何もかも男達がやっているという事になる。まあ、殆どクリーニングだろうが。

 それを考えるとおかしかった。
 ヤクザでも人間だ、身の回りの事くらい出来るだろう。

 それを出来ないと思っていたからおかしくなったのだ。

「?」
 突然笑い出した響に楸は驚きながらも全部終わらせていた。

 腰砕けの響をベッドに寝かせて、当然とばかりに自分も隣に滑り込んだ。

 今度は本当の抱き枕になった響。  
 楸は気持ち良さそうに響を抱き締めて眠ってしまった。

「警戒心のかけらもないのか……」
 響を残して先に眠ってしまった楸を見ながら、響はそう呟いてしまった。
 まるで、野生の黒豹が人に懐いたような感じだ。

 なんか、そう言い換えてみると気分は悪く無い。

 響はそんな楸の顔をみながら眠りに入っていった。