Distance 7round everywhere2-1

「ほら、久己(ひさき)……ここはもうぬるぬるしてるよ」
 後ろから突き上げられて意識もだんだんと朦朧としてくる中、亜里久己(あかりひさき)はこの声の主の言葉に敏感に反応した。

「あ……やっ……」
 だが出てくるのは喘ぎ声ばかりでちゃんとした日本語にすらなってくれない。

 やめてほしい、そんなこと言わないで欲しい。
 そう思ってはいても心と体は別物だったのに、だんだんと同一になってくる。
 身体はとっくに声の主の言うがままになってしまっている。

「んぁ……は……ぁ……んん」
 ぐしゅぐしゅと音が響いて聞こえる。周りはそんな濡れた卑猥な音と自分の呼吸する音。そして声の主の息遣い。
 久己は声の主の身体に跨って、自分で腰を振っていた。後ろの穴には声の主のモノが深く突き刺さっている。それを身体を上下することで自分で挿れたり出したりを繰り返していた。
 声の主が手を伸ばして久己自身に触れる。そこは勃起して濡れてゆらゆらと揺れているところだ。

「あ……だめ……そこはっ」
 はっとして久己はその手を遮ろうとするもタッチの差で声の主に捕まれてしまった。

「ああぁぁ……っ!!」
 ぎゅっと握られただけで放置されていたそこから与えられる快感は身体を突き抜けるようなものだった。瞬間白い液体がはき出された。

「……んぁ……」
「なんだ、握っただけで達っちゃったのか? 淫乱になったもんだ」

「う……ん……ぁ」
 さっき出てしまったのに声の主は握った久己自身をまた扱きだした。

「ひさーき、動き止まってる」
 達してしまったから一瞬放心して動きが止まってしまったのだ。しかし達したのは久己だけで声の主はまだまだ元気だった。

 久己の中は圧迫されたままで、熱いものはゆっくり汁を中に出しながらもまだまだ猛りが収まらない。 この雄を納めるまで久己が付き合うことになるのだが、まだまだ久己だけの力ではこの猛りは収まりそうにもない。

「も……だ、め……ん」
 久己が泣きそうになりながらそう訴えた。
 足はもう動かすことは出来ず、上下に腰を揺らす力も尽きてしまった。
 自分はすでに両手で数えるくらい達していたが、声の主はまだ一回も達してない。
 こんな絶倫に出会ったことなどないし、初めてのことだから久己にどうしていいのか分かるはずもなかった。

「もう降参か?」
「…………」

「降参なら、約束守って貰うぞ。そういう約束だったよな?」
 声の主はそう言って久己に回答を要求する。
 久己は返答に困っていたが、やがて小さな頭をゆっくりと縦に振ったのだった。

「よし、今日から久己は俺のものだ。よろしくな」
 そう言って声の主は久己の腰を掴むと突き上げたのだった。


「……であるからで」
 入学式の挨拶は恒例のものであるにしても、長くてすごく退屈だ。

 学院長も毎年同じ言葉を並べ替えただけの言葉で話しているだろうし、一年経てばみんな忘れてしまうようなつまらない建前なんて必要はないと、椅子に座りながらも退屈でどうにかなりそうだった亜里久己は気分が悪いながらもなんとか耐えていた。
 こんなくだらないことを考えてないと、とにかく気分が悪くてどうしようもない。

 今日のラッシュの人並みがいけなかったのか、田舎から上京してこの学校に入学した久己には、あの人の波というものがどうしても耐えられるものではなかった。

 ただでさえバスや電車さえ一時間待ちのような場所で、乗る人だって全員座っても余りある席があるような田舎からだから、慣れろという他ないのだが、どうしても駄目なモノはあるだろう。

 どうでもいいから早く終わってくれないか、そう思う。周りの生徒は聞いているようで聞いていない。エスカレーター式の学校だから知り合いも多いのだろう。こそこそと話している生徒も多い。
 やっと学院長が話を終え、特に何かあるわけではないだろうと思っていると、放送委員が絶望的な言葉を続けたのだった。

「次は部活動の……」
 ここまで聞いて久己の意識はブラックアウトした。
 ここまで耐えた、むしろよくやったと自分を誉めてやりたいくらいのがんばりを見せたが、久己はそのまま入学式で倒れる貧弱な子を演じてしまったのだった。

 次に目が覚めた久己は、天井が白いことに驚く。
 ブラックアウトする時を覚えているから、ここは学校で保健室にでも運ばれたんだろうとすぐに予想がついて、ほっと息をついた。

 気分の悪かったさっきまでと違い、今は気分の悪さはなくなっている。
 ゆっくりと起き上がった時、横のカーテンが開いた。

「おはよう、気分はどうだい?」
 そう聞いてきたのは保健医だろう。白衣を着た男が少し身をかがめて覗き込んでいた。

「あ、はい、大丈夫です」
 久己はそう言って布団から出ようとするも、保健医に止められた。

「ちょっと待って。君、名前は?」
 何か書類にでも必要なのか?と久己は考えて素直に答えた。

「亜里久己(あかりひさき)です。一年一組です」
 久己がそう答えると、保健医は書類に名前を書き込んでいる。そして電話をして何か報告するとこっちを向いた。

「いやー。倒れたのは一年一組だって分かってたけど、名前までは分からなくてねえ」
「そうですか……すみません」
 久己がそう謝ると、保健医はにこにこして手を振った。

「いやいや、一応俺も仕事したことになったし、まあいいかな。入学式ってあんまり仕事ないからね」
 まあ、保健医が大活躍の入学式というのもニュースになりそうな話題である。
 とにかく保健医は暇だったのだ。どうしようもないくらいに。

「亜里……久己だっけ。珍しい名字だね」
「あ、東京じゃないですから」
 久己はそう言って地方からの入学であることを話した。

 大学に進学するために親戚の紹介でここに入学したこと。住まいが一人暮らしの学生が使うようなアパートであること。親が離婚して田舎に引っ越したが問題があってまた東京に戻ってきたこと。
 言わなくてもいいことまで話してしまっていたような気がする。
 何か変だなと思っていたところに急にガラリと保健室のドアが開いたかと思うと、そこに一人の生徒が立っていた。

「せんせー」
「ああ、迎えか」

「はい、一組でーす。こんちゃ亜里くん、迎えにきたよ。教室分からないでしょ」
 迎えに来た人物はちょっと明るめの子で、担任に頼まれて久己を迎えにきてくれたらしい。

「すみません、ありがとう」
「じゃ、後たのむな」
 久己はベッドから腰を上げて保健医にも礼を言って保健室を出た。保健医は縁起でもないことに。
「またおいで~」と言っていた。

 変な保健医だな、久己はそう思っていた。
 確かにその通りだったと気付いたのは、そのすぐ後のことだった。

「なー、亜里って、誰か付き合ってる人いる?」
 迎えに来たというちょっと背が低めで久己が視線を下げるくらいの背の浜多は、エスカレーター式であがってきた生徒で、幼稚園からずっとこの学校関連の学校に通っているのだという。小さくて160センチくらいの久己よりも小さいから155センチくらいだろうか。少し髪の色をオレンジにしている子で明るくて話しやすそうだったのだが、自己紹介が終わると同時にそんなことを言い出したのだ。

「え?」
 一瞬久己はドキリとする。
 付き合っている人……それはもういないのだ。
 そう認識して答えるのに数秒かからなかったと思う。

「いや、いないけど?」
「男同士ってどう思う?」
 浜多はまた唐突にそう聞いてくる。
 まるで久己の過去を知っているかのような質問に久己は一瞬息を詰らせたが、これはただの質問なんだと言葉を選ぶ。

「や、別に気にしないけど。この学校だし、そういうこともあるんじゃないかなって。浜多はそっち系なの?」
 久己は自然に自然にと心を落ち着かせながら冗談ぽく聞き返した。
 すると浜多はうんと頷く。嫌にあっさり認めたものだ。

「まあ、よくあるから気にされないかもしれないね。よかった」
「そういうものだよ」

「あ、ちょっとだけトイレ寄っていい?」
 浜多はそう言うと近くにあるトイレを指さして聞いてきた。そういわれると久己も行きたくなってくる。

「俺もちょっとしたいから、いいよ」
 久己がそう言って付き合うことにすると、浜多はにっこりと微笑んだ。
 これをのちに悪魔の微笑みと言った方がよかったのだろうなと久己は後悔することになった。

 トイレに入って用を足す。それだけのことだったのに、久己が用を足そうとしたその時に浜多が動いたのだ。
 急に覗き込んできたかと思うと、にゅっと手を伸ばして、尿を出す為に出したものにいきなり何かを塗りつけてきたのだ。

「……ちょっ」
 ぎょっとした久己が叫ぶと、浜多はさっさと洗面所まで逃げていってしまう。
 中途半端にされたままだったし、尿を出すところだったから止まるわけもなく、その場を動けないでいる久己に浜多が言い放った。

「ごめん、マジで。でも俺も弱み握られててさ。それに報酬ありだっていうし」
 と訳分からないことを口走っている。

「……どういうこと? これなんなの?」
 いきなり自分自身に塗りたくられた液体はなんなのか問う。

「……わかんない」
 眩暈がしそうな返事が返ってきただけだった。