Distance 10round Fainal Distance 1

 南几光(あい ひかる)は窮地に陥っていた。

 目の前にある、自分にもついている男の象徴であるそのモノを舐めろと命令されていたからだ。
 少し黒くて自分のとは比べものにならない大きさのそれを自分の口に含んで奉仕する。それが南几光が、その人物から逃げられる唯一の手段なのだ。

「どうした。やるんだろう?」
 男はそう言って一歩前に進んできたから、光の顔にそれが当たる。 
 そんなものを顔に当てるなんて……。
 そう思って顔をしかめると、男が笑った。
 仕方ないやるしかない。

 覚悟を決めて、光は性器を手にし、ゆっくりと口に含んだ。
 嫌な味がする。だが我慢するしかない。

「ん……んふ……」
「そうだ……いい子だ」
 しゃぶりついて口で扱いて舐めていると男が言った。

「舌も使え。下から舐め上げて、先まで。そうだ」
 口から出して舌で性器を舐め上げる。指で扱きながら先端を舐めてキスをするようにして吸い上げる。
 男はそれに満足したように光の頭を撫でている。
 こんな嫌なことをさせられているのに、光は嫌だと思うよりもだんだんと妙な興奮を覚えてしまった。

「どうやら、お前も興奮してきたようだな」
 そう言われて光は驚愕した。
 自分自身も勃起していた。

「そ、そんな……」
 慌ててそれを隠そうとした手を男が止め、じっと眺めてきた。
 全身をなめ回すように見られて、光は一層恥ずかしくなった。

 光はこの時、ほとんど全裸だった。
 肩に引っかけるようにしワイシャツ姿でいる理由や、ここ視聴覚室にこもってた理由。

 それは光がある人物とセックスする目的できて、その途中でこの男に目撃されたことが原因だ。
 光の相手は、教師だった。それも来月結婚する男の教師。
 ずっと好きで付き合って来たが、学校の外で会うのは危険だったので、学校以外で会ったことはなかった。
 その教師が結婚をすると知ったのは、さっきのことだ。

 この男がそう言ったからだ。
「おや、野島先生。来月結婚するっていうのに、生徒に手を出してていいんですかね?」
 男の第一声に、視聴覚室には誰もいないと思っていた光と教師の二人はすくみ上がった。

 光達が盛上がって、セックスになだれ込み、光の制服をワイシャツ一枚にして教師が光を押し倒しているところだった。

 声のした方向に目を向けると男はここの生徒だった。制服だったし、ネクタイは二年の色をしている。
 だが光は別の驚きで一杯だった。

 ……先生が結婚する?
 それは初耳だった。教師はそんなことは一言も言わなかったし、さっきだって光だけ愛してると言っていた。

 光が教師と付き合いだしたのは、一ヶ月前だ。
 その時には、教師は結婚することが決まっていたということなのだ。

「……す、西水(すがい)、こ、これは……」
 教師が取り乱して、光から遠ざかると言い訳をしようとしている。

 どうして、先生、結婚のことを否定しないの?

 光はそんな目で教師を見ていたが、教師は西水(すがい)という人物に精一杯の言い訳をしていた。
 光が誘ってきたから乗っただけだ。そう言っていたと思う。

 さっきまでの愛の言葉なんだったの?
 光が呆然としている中で、二人の話は進んでいた。

「野島先生、今回は見逃してあげますよ。だって結婚相手は、理事の一人娘ですからね。公になったら先生、この学校から追放どころか教師も終わりですからね。さあ、もう言い訳はいいので、この場からさっさと去ってください。邪魔なんですよ」
 西水がそう言うと、教師は光を放って、大慌てで視聴覚室から出て行った。

 光はそれを黙って見送った。呆然として唖然としていたから、その行動の意味を考えるので頭がいっぱいだったのもある。
 教師は西水(すがい)という人に言い訳しかしておらず、結婚することは否定しなかったし、こうなっている光を放置して逃げていった。
 いろんなことに衝撃を受けた光も逃げることを忘れてしまった。

 西水は光に近づいてくると、光にこう言った。

「お気に入りの教師が結婚することに驚いているようだが、知らなかったとはね。それで、お前はどうする? 教師と関係を持ったと言って教師を貶めるか?」
 そう問われて光は我に返った。
 西水が面白そうに光を見つめていたが、光は西水を睨み付けて叫んでいた。

「そ、そんなこと出来ない! 先生が可哀想だ!」
 光がそう言うと西水はニヤッとした。

「だが、俺が黙っててやる理由もないしな。野島の結婚相手を知らないわけでもないし、生徒に手を出すような教師だと分かれば、結婚もなくなる」
 西水は光の反応が面白いのか、わざと追い詰めるような言い方をした。

「そ、そんな……!」
 光が呆然として西水を見ると、彼は光の姿を上から下まで眺めてから言った。

「この、俺の高ぶりを治められたら、黙っててやってもいいが。どうする?」
 そう西水が言うのでなんのことだと首を傾げていると、西水がズボンのチャックを開けて、そこから高ぶったという性器を出したのだ。

「……ちょっ」
 なんでこんな展開になったんだ。光には急展開過ぎる状況に思考回路が考えることを拒否し始めて来た。

「お前の裸を見ていたら、こうなった。これをお前の口で達かせるんだ。そうしたら、このことは黙っててやる。安いものだろう。お前はさっきまで野島とこんなことをやろうとしてたんだしな」
 西水にそう脅されて、光は頭で考えていた。
 あれを舐めていかせたら、このことを黙っててくれるのだろうか。
 本当にそうなのだろうか?

「お前が断るなら、このままお前を廊下に引きずり出して、みんなが見ているところで、教師と何をしようとしていたのかを言いふらしてやろう。そうなれば、教師どころかお前もこの学院にはいられなくなるな」
 西水の言葉に光はびくりと体を震わせた。

 そんなのは困る。
 結婚が決まった教師と寝た生徒。自分の存在が教師の一生を左右することになるのだと言われたら、それは絶対にバレてはいけないことなのだ。

 ただでさえ、まだ好きだという気持ちがある。裏切られたとは思うが、別に教師とずっと一緒にと願ったわけじゃない。
 ただ一時一緒にいられたらそれでよかったのだ。こんな大事になるような状況じゃなかったはずなのだ。
 ただ、この男に見られたということだけだったのに。たったそれだけのことで全てが終わってしまうというのだ。

「どうする?」
 西水が笑って尋ねてきた。
 光には選択肢は一つしかなかった。
 西水の前に跪くと、西水が満足したように微笑んでいた。

「んふ……あ……ん」
 光はさっきから結構長く西水の性器を舐めてたりしていたが、一向に彼のものが果てることがなかった。大きくドクドクと脈打ってはいるし、先からも汁が出てきていたから、感じていないわけでもないのは分かる。
 だが、彼は達ってはくれない。
 それどころか自分が妙な気分のまま達きそうだった。

「もういい」
 西水がそう言って、光の頭を引っ張った。

「……あの……」
 顎が外れそうなほど痛い。ずっと咥えたままだったからだ。

「お前、下手だな……」
 西水の呆れたような声に、光は文句を漏らす。やれと言われてやったのに。

「やったことないんだから、下手とかわかんないよ」
 顎が疲れたとばかりに光が自分の顎を触って文句を返すと、西水が座り込んでいる光を抱き上げ、机の上に座らせた。

「……な、なに?」
「ちゃんと覚えろよ。こうやるんだ」
 西水はそう言うと、光の両足に手をかけて左右に広がせると、その間に体を挟んだ。

「ちょっと……ちょっとまっ!」
「最高に気持ちよくしてやる」
 西水は言って、光自身に顔を寄せてそのまま口に含んだ。
 温かい口腔に含まれ、その中で舌が器用に動いているのを感じて光は奇声を上げた。

「あぁぁ――――――!!」
 体が反って顎まで反る。両足をしっかりと押さえつけられているので西水からは逃げられない。
 舐められただけで一回達してしまったのだが、それでも西水は扱くのをやめない。達ったままの状態でまだ扱かれて、光自身はまた勃っていた。

「んぁ、あ……やぁっ……ああっ!」
 西水は口から光自身を出しても、指で責めながら笑って言った。

「本当に初心者だな。だが、反応はいい。何故、野島の時には半立ちだった?」
 西水は最初から見ていたようで、光が野島に触られてあまり反応してないのも知っていた。

「んぁ……あ、だって……んぁ、あんまり……気持ちよく……んん、なかった……あぁっ!」
 口でされたから達ったのかと思っていたが、今西水が触っている手で扱かれていることですら、野島の時とは天と地の違いがある。

「正直なのはいいことだ」
 西水は笑ってそう言うと、光を指で達かせた。

「んぁあぁぁ――――――!!」
 連続で二回も達かされると、頭の中が真っ白になる。
 吐き出したものが腹に塗りつけられて、光は触られるだけでもビクビクと震えた。

「……はぁ……はぁ……んぁ……あっ」
 力が抜けて肩で息をしていると、ゆるりとした指が有らぬ所に入ってきている。

「や……なに……して……」
「いいから、そのまま力抜いてろ。そう、そのまま。息をして吐いて」
 光の体を横向きにした西水は、光の背中を撫でながら、穴の中に指を一本入れてゆっくりと中を確かめるようにして動かしていた。
 西水はラブホテルの備品にあった袋詰めのジェルを付けて、それのぬめりを借りて穴を広げるように進めていく。

「ん……ん……」
 中を掻き回している指に意識が向こうとすると、背中や腰や足を撫でている手の方に意識が向けられる。そうして翻弄されている間に光の中に変化が出てきた。

「ん……あ……あっ!」
 あるところを触られたら体が跳ね上がった。

「な……に……ああっ!!」
「ああ、見つけた。ここがお前のいいところだ。ここを触られるだけで達けるぞ」

「やっ……あっ、あっ、あぁっ!」
「これだけで達くのは面白くはないだろう。もうちょっと広げてからもっといいことをしてやろう」
 いいところだと言われた場所を避けて、西水は穴の中に指を三本入れていた。穴の周りをゆっくりと広げる作業だけでも西水は何十分もかけていた。

 いつまでこんなの続くのだろう……。
 ふと不安になった光だったが、西水はすぐに光が違うことを考えているのに気がついたようだった。

「他のことを考える余裕があるのか……それじゃ俺をそろそろ達かせてもらおうか」
 西水は光の腰を高く上げて足を開き、穴が見えるようにし、そこに西水の高ぶったものを押し入れた。

「や……あぁぁ――――――!!」
 いきなり熱いものが中に入ってきて、指なんかとは比べものにならない圧迫で光の息が止まった。

「光、息をしろ。大丈夫だ、ゆっくり、ほら口を開いて」
 痛くて想像していたよりも苦しくて、光は息をするのを忘れてしまったが、西水が名を耳元で呼び、抱きしめた肩を撫でてくるから、やっと息が出来るようになって光は深呼吸をした。

「……ん、痛い……苦しい……あ、もう、やだ……」
 なんでこんな痛くて苦しいことをしようとしたのだろうか。
 こんなので気持ちよくなるとか、絶対嘘だ。
 光は混乱したままでそう言っていた。

「光、俺を見ろ。ほら、泣くな」
 ポロポロと零れる涙を拭きながら西水がそう言うので、光は西水を見た。その彼の顔は少し辛そうだった。

「あんたも、痛い?」
 光がそう尋ねると西水は少し笑った。その笑顔は、最初の印象とは真逆のとても優しい顔だった。

「ああ、まだ半分しか入ってないし、光が力を抜いてくれないと入れるのも出るのも無理なんだ」
「どうすれば、いい……?」
 光が首を傾げながら尋ねると、西水はニコリと笑って言う。

「俺の言う通りにすれば、光はもっと気持ちよくなれる。もちろん、俺もだ」
「あんた、気持ちよくなりたいのか?」

「ああ、光の中で気持ちよく達きたいよ」
 西水はそう言うと光にキスをしてきた。
 唇を啄むようにして何度もキスをし、そして深いキスになった。

 普通の唇を合わせるだけのキスなら野島ともした。だが、それよりも頭がクラクラするようなキスは西水とのキスが初めてだ。
 舌が中に入ってきて、歯を歯茎まで舐めて、光に答えるようにと舌を絡ませてくる。やり方は分からなかったが、西水に答えるようにして舌を絡ませていると、痛かったところが薄らいできた。
 そのキスに合わせて西水は腰を進め、ゆっくりと光の中に押し入った。

「んは……あぁ……ん」
 唇から西水の唇が離れると、西水は光の首筋にキスを落とし、よく出来たと言わんばかりにキスマークを残した。
 そして馴染むまでの間、西水は光の体中を愛撫した。

 最初は優しくなんかなかった。
 でも途中から優しくなった。

 そもそも男同士のセックスがここまで大変だとは思わなかったし、あのまま野島とやっていたとしても、野島のことを殴り倒していたかもしれない。
 それより、騙されてたのを後で知ったとしたら、もっとショックが大きかったかもしれない。

「また考え事か? これからが本番だって忘れてないか?」
 西水がニヤリとして光の唇にキスを落とした。
 それが合図だった。

「ほ、本番って、あ……やぁあっ――――――!!」
 ずるりと西水が出て行って、そして押し入ってくる。
 そうした行為が何度も続いて、光は苦しくて西水にしがみついていた。

 ちっとも気持ちよくない!
 そう文句を言いたかったのだが、暫くして何か違う感覚が生まれてきた。

「んぁ……は……あ……ぁあ」
 息を吐いていただけなのに、声が一緒に漏れる。
 その声がいつもと違うものだったので光も驚いた。
 なんでこんな声が出るの?と。

「あん……ああ……あっだめ……や……あぁ」
 なにこれ、お尻の中が気持ちよくなってきた。
 出て入るアレがもっと欲しくなってきた。

「あぁ……あ……だめ……そこだめっ!」
「光、だめじゃない。それは気持ちいいと言うんだ。ほら、これが気持ちよくなってきたんだろ?」
 ぐっと奥まで突き入れられて光は体を反らした。

「あぁっ……いい……きもち……いいっあ、どうにか……なりそうっ」」

「そうだ。素直になるんだ……光はこれが気持ちいいんだな。気持ちよくなって、もっと乱れろ。それでいいんだ」
 西水の声に支配されて、光はここがどこか、どうしてこういう状況になったのか、そういうことを一切忘れてしまっていた。

「あ……なんか……ん……だ……あぁ……なか……いっぱい……やぁ、きもちいい……ああ……きもち……いいぃ」
 西水に振り回されて、気持ちいいと何度も言って、自分から腰を振って西水を誘って、それに西水が答えてくれて、気持ちいいところを擦ってくれて、頭の中はただその快楽で一杯だった。

「……達いきそうだな……」
「んや……なんかくる……あぁ……なんか……いっちゃ……いちゃう……だめぇ……ああぁっ」

「光、達け」
 西水が光のいいところを何度も強く擦って、ほとんど悲鳴に近い声を上げていた。

「いっちゃうっ……いっちゃうっ! ああぁぁぁ――――――!!」
「くっ……」
 光が体反らして達すると、西水も中で達したようだった。
 温かいものが奥に叩きつけられるように放たれて、それがじんわりと光の内部にとけ込んでくる。

「あ……あぁ……んん……」

「よく出来たな、光」
 西水はそう言うとぐったりしていた光を抱き上げて、唇にキスをしてくれた。
 それが気持ちよくて光も求めるようにキスをし返していた。
 逆流して西水が放ったものが穴から出てきていたが、そんな些細なことは今は気にならなかった。